野山の彩り 山野草Web写真集 深谷利彦
四季の彩り Part3
キバナハナネコノメ 新城市
ネコノメソウの仲間は種類も多く千差万別。
見分けの難しいものも多く同定に苦労することも多いが
キバナハナネコノメは分かりやすく唯一無二の存在と言ってもいいかもしれない。
何よりも花が美しい。
黄色い萼裂片と突き出た雄しべ。
そして葯のオレンジ色が魅力を一層引き立てる。
一般的には黄色い葯のものの方が多いようだが
私がお気に入りで出かける自生地は
こんな風に赤味を帯びていている。
春先に咲く花なので花期の読みが難しいが
桜の花が五分咲きくらいの頃に出かければまず外れることはない。
ハルリンドウ 静岡県
ハルリンドウは湿地に咲くイメージが強いが
実際にはもう少し乾燥気味の場所でも花を咲かせる。
早春の花なので他の花に先駆けて咲く。
なのでその場を独り占めしているかのように群生することも珍しくない。
写真はそれほどの群生ではないが
伸び伸びと咲き広がる光景が美しかった。
時々白花やピンクの花も見つかるので
探してみるのも面白いかもしれない。
ニオイタチツボスミレ 群馬県
ニオイタチツボスミレは珍しいスミレではなく比較的どこでも見られる馴染みのスミレ。
タチツボスミレの変異で色も少し濃いめ。
一番の特徴は唇弁の白い部分と紫の部分の境目がはっきりしていること。
全体的に丸みがあってタチツボスミレの仲間の中では
最も美しいと個人的には思っている。
愛知県でもあちこちで見られるが写真は群馬県で撮影したもの。
広い林の中に咲く様子は愛知県ではなかなか見られない光景。
春の柔らかい陽ざしが心地よさそうだった。
アリアケスミレ 刈谷市
私にとっては最も身近なスミレの一つ。
田んぼ周辺の畦などに大群生する。
紅色の濃いものが多くとても美しく愛らしい。
エイザンスミレが都会育ちの品のいいお嬢さんなら
アリアケスミレは気取らない田舎娘と言ったところだろうか。
毎年3月下旬から4月上旬にかけて見事な花を咲かせてくれるが
去年群生していたところへ行っても少ししか咲いていないことが多いし.
時には何もなかったりもする。
田んぼ周辺なので除草剤も撒かれるし草刈りもされる。
大型トラクターに踏みつけられることも珍しくない。
そんな苦境に遭いながらも毎年どこかで見事な花を咲かせてくれている。
ユキワリイチゲ 滋賀県
ユキワリイチゲは西日本に自生するキンポウゲ科の多年草。
見たことがなかったので自生地を調べて出かけてみた。
名前のように雪解けとともに花を咲かせる早春の花。
キクザキイチゲと同じ仲間だが
花弁がしっかりしていて凛とした印象を受けた。
白馬村の道端風景 白馬村
フランスギクやオオキンケイギクといった帰化植物が咲く道端。
特にオオキンケイギクは特定外来植物に指定されている厄介者。
そんな帰化植物が多く生える道端だが
様々な概念を取り払って見てみるととても美しい景観だ。
そもそも帰化植物には何の罪もない。
自生地では好まれている可能性もある。
人が勝手にいい悪いを決めているだけ。
日本古来からの植物を追いやって繁殖するけしからん奴だという言い分も分からないわけではないが
オオキンケイギクも人が持ち込んだもの。
そんなことより環境破壊の方が全地球的な規模であらゆるものに影響を与えている。
朝露に濡れるアヤメ 白馬村
撮影のために出かけてもほとんどは車中泊だが
時々宿泊することもある。
この日はペンションに宿泊。
朝食前の時間を利用して早朝散歩を楽しんだ時に撮影したもの。
朝露に濡れるアヤメが美しかった。
こんな場面が道端で見られるのが白馬村の魅力。
残雪の白馬三山もくっきりと見えていた。
稜線のお花畑 北岳
北岳には20回以上登っている。
白馬岳も同じくらい登っているが
どちらも花が多いので飽きることがない。
北岳で特に好きな季節が6月下旬から7月上旬。
まだ残雪の多い季節だがキタダケソウが見られることと稜線のお花畑の美しさが圧巻。
写真は北岳肩の小屋に向かう途中の稜線で撮影したもの。
オヤマノエンドウとミヤマキンバイとハクサンイチゲのお花畑。
7月中旬では花が終わって見られない光景だ。
キタダケソウもいいがこの光景を見るだけでも登る価値があると思っている。
ハクサンコザクラ 朝日岳
高山植物の群生風景は雪田周辺で見られることが多い。
雪解けとともに一気に花を咲かせるその姿からは春を待ちわびた花たちの
歓喜の声が聞こえてくるようだ。
ハクサンコザクラはサクラソウ科を代表する高山植物。
花の色もその佇まいも全てが可憐で美しい。
山に登ってもどこで群生風景に出会えるかは分からない。
群生する場所を知っていても毎年同じように群生するとも限らないし
ちょうどいい時期に巡り合えるとも限らない。
それだけに高山植物との出会いはドラマチックなのである。
里に咲く花なら下見もできるだろうし、もう一度訪ねることも可能だが
山はそんな訳にはいかない。
一週間違えば花の様子はすっかり変わってしまう。
一期一会という言葉が高山植物観察にはそのまま当てはまる。
だからこそ群生する風景に出会えた時は運が良かったと感謝しなければならないと思うし
自然の前では謙虚にならなければならないと思う。
ありがとうという言葉が自然に出てくる自分でありたいと思っている。
ハクサンイチゲとシナノキンバイのお花畑 小蓮華岳
白馬大池から白馬岳に向かう途中に小蓮華山がある。
その山頂手前にこのお花畑が広がっている。
決して大きなお花畑ではないが
これから目指す白馬岳と杓子岳が望め気持ちが高揚する風景だ。
実はこの写真は下山時に撮影したもの。
行きの時はガスが出ていて山は望めなかった。
だからこそこの風景が私にとっては特別なものとなる。
何度も同じ季節に同じルートを歩いているが
これだけくっきりと山が望めるたのはこの時だけ。
夜明けのアマニュウ 白山
白山の南竜ヶ馬場にテントを張って翌朝山頂を目指した。
私にとっては珍しく夜明け前からの行動でヘッドライトをつけてのことだった。
30分ほど登ったところで東の空がいい感じに染まってきたので
休憩がてら撮影しようとザックを下ろした。
空ばかり見ていたので気づかなかったが目の前にはアマニュウがでんと生えていた。
その時日の出の写真もいいが日の出前の茜色の空を
アマニュウを入れて撮ると面白いと思った。
イボクサ 半田市
田んぼの縁など湿り気のある場所に生えるイボクサ。
ツユクサの仲間なので朝花が開いても午後には閉じてしまう。
身近な野草の一つだがとても美しい花を咲かせる。
美しいという表現よりも愛らしいと言った方がいいかもしれない。
白からピンク色へとグラデーション風に染まる花弁の色合いが絶妙。
そして突き出た雄しべと花糸の白い毛も全体のバランスをとっていて
美しさを引き立てている。
写真はそんな様子を撮ってみたくなってマクロ撮影したもの。
花は普通1つしかつかないが写真のように2つつくものも時々見られる。
そんなのを探してみるのも面白いかもしれない。
淡い色のミゾソバ 白馬村
田の畦や水辺など湿り気のある場所を好むミゾソバ。
秋に咲くタデ科の中では最も好きな野草。
写真は9月に白馬村で撮影したもの。
普通はもう少し色も濃く花被の裂片もしっかりした印象だが
ここに咲いていたものは色も淡くガラス細工のように透けていて
縁のピンク色も雄しべの葯のピンク色も絶妙な美しさだった。
エノコログサと彼岸花 新城市
秋のお彼岸の頃には毎年愛知県の新城市を訪れて彼岸花を撮影している。
田んぼの周辺に咲く彼岸花が大変多く
昔ながらの景観を保っている地域なので散策するのが楽しい場所だ。
刈り取り前の黄金色に輝く稲との相性も良く
どこを撮っても絵になる風景が展開されている。
そんな中彼岸花を主役にせずエノコログサを主役にして
彼岸花は脇役に回ってもらうのも面白いと思って撮影したのがこの写真。
自分の意図する写真は撮れたかなと思うがどうだろう?
ミコシグサ 戸隠
ゲンノショウコの別名はミコシグサ。
花が終わり実ができると神輿の屋根のような姿になることからその名がある。
秋に散策していればそれなりに見かけるが
撮りたくなるような場面はそんなに多くない。
写真は秋に戸隠に出かけた時のもの。
鏡池の周囲を散策している時に見つけた。
神輿の様子もよかったし4つ並んでいるのもよかった。
そして葉が真っ赤に色づいているのも最高の色合いだった。
圧巻 紅葉の涸沢 涸沢カール
山の紅葉でもっとも有名な場所が涸沢かもしれない。
紅葉シーズンともなれば登山者がどっと押し寄せて
山小屋も満杯、テント場もテントを張る場所がなくなるほど混みあう。
私が出かけて最も混みあった時がテント場に700張で
その時受付の人から過去最高と聞いた。
ところが今では1000張りを超えることも珍しくないという。
それだけ人気の山であることが伺える。
涸沢の紅葉のすばらしさは山の景観なしには語れない。
真っ赤に色づくナナカマドが主役であることには間違いないが
カール全体を彩る紅葉のグラデーション
そして涸沢槍のピラミダスな山容と山並み。
その全てが揃ってこの景観を作り出している。
日本の風景とは思えないほどのスケール感がここにはある。
これまでに何度も紅葉シーズンに登っているが
この年が最も鮮やかだった年だった。
アサマリンドウ 和歌山県
まだ見ぬ花に憧れるのは野草好きな人なら誰でも持っているのでは?
以前からアサマリンドウの花を一度見てみたいと思っていた。
そんな時、私の写真の師匠であるいがりまさし氏のワークショップが
和歌山県で開催されることを知った。
メインの花がアサマリンドウとなっていたので迷わず申し込みをした。
そして念願の出会いが叶い気持ちが高揚したことを思い出す。
苔むした林の中に咲く様は独特な雰囲気があって
なんだか別世界に迷い込んだようなそんな気持ちにさせられたものだ。
興奮しすぎていたせいか納得のいく写真がほとんど撮れなかったが
それもまた良しと思い出のページに閉まってある。
最後の旅立ち 高浜市
撮りたい花が少なくなってくると別のものを撮ってみたくなる。
タンポポの綿毛もその一つ。
すっかり枯れて綿毛だけになっている姿はよく見るが
その綿毛は風に飛ばされて次第に少なくなってくる。
そして残り一つという場面に出会った。
すぐにでも飛んで行ってしまいそうだったので急いで撮影した。
幸いだったのは風がほとんど吹いていなかったので
急ぎながらもじっくりと撮影出来たことだろうか。
霜とモミジ 豊田市
小原村の四季桜を見ようと朝早くから車を飛ばして現地につくと
冷え込んだせいか周囲は霜で真っ白だった。
霜好きな私としては願ってもない状況で
四季桜のことは後回しにして霜の撮影に興じた。
手がかじかむ寒さであっても霜の撮影中は
心の中心にぽっと火がともっているので寒さを感じない。